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くすりの話

第23話 慢性骨髄性白血病について


2009年7月/磐田市立総合病院 薬剤部

慢性骨髄性白血病とは?

慢性骨髄性白血病は、成人白血病の約20%を占め、わが国においては、毎年、10万人に1人の頻度で発症しています。発症する原因は明らかにはされていませんが、最近の研究では様々な原因により遺伝子が傷つき、傷ついた遺伝子から初期の癌細胞が発生することがわかっています。遺伝子を傷つける原因は、放射能や紫外線、タバコをはじめ、日常の中にたくさんあり、初期の癌細胞は私たちの体内では常に作られています。多くの場合、この初期の癌細胞はまもなく消えてしまい、正常な状態に戻ります。しかし、ごく一部の人ではそのまま増殖し続けて、本当の癌になってしまいます。初期の癌細胞が増殖し続けるか消えてしまうかは、全くの偶然によるもののようです。

「遺伝子の病気」と聞くと、「遺伝するのでは…?」と考える方もいるかもしれませんが、通常、白血病が遺伝することはありません。細菌やウイルスによるものではないので、もちろん人に感染するものではありません。

“慢性”白血病と“急性”白血病

“慢性”白血病は、白血病が慢性化した病気と思われがちですが、“慢性”白血病と“急性”白血病は病気の起こり方や仕組みが異なります。慢性白血病は急性白血病が慢性化したものではありませんが、急性期では似たような症状があらわれます。

慢性白血病(病気の進行:ゆっくり)

初期には症状がないか、軽いことが多い。進行すると、発熱、貧血、出血等の急性白血病のような症状があらわれる。

急性白血病(病気の進行:早い)

初期から、発熱、貧血、出血斑(あざ)等の症状があらわれ、急速な入院治療を要する。

慢性骨髄性白血病は進行度により3つに分けられます

CMLビジュアルガイドより引用

ほとんどの患者さんは慢性期の段階で病気がわかります。慢性期に治療を開始すると良い結果が出やすいことがわかっていますので、慢性期のうちに適切な治療を開始し、移行期、急性転化期に進行するのを防ぐことが大切です。
慢性骨髄性白血病の原因遺伝子は、すでに見つかっています。慢性骨髄性白血病患者さんの95%以上でフィラデルフィア染色体と呼ばれる特殊な遺伝体が見つかっており、慢性骨髄性白血病の原因となる遺伝子はこの遺伝体の上にあります。

CMLビジュアルガイドより引用

染色体というのは遺伝子の束です。遺伝子は我々のからだの働きに重要な蛋白を作っています。人には46本の染色体がありますが、フィラデルフィア染色体はこのうち9番目の染色体と22番目の染色体が途中から切れて入れ替わってつながったものです。2つの染色体がつながる時、それぞれの染色体の切り口にあった、bcrという遺伝子とablという遺伝子が1つになってbcr-abl遺伝子という新しい遺伝子ができます。これが慢性骨髄性白血病の原因となる特殊な遺伝子です。この遺伝子によって作られる蛋白は、「白血病細胞を作れ」という指令を絶え間なく出し続けます。そのため、体内では白血病細胞がどんどん作られてしまうのです。

慢性骨髄性白血病の治療

CMLビジュアルガイドより引用

慢性骨髄性白血病の治療法は、図のように大きく分けて4つあります。これらの方法を病気の状態により使い分けたり、組み合わせたりして治療を行いますが、今回は【分子標的治療薬】に新薬が発売されたため紹介します。
慢性骨髄性白血病の原因はbcr-ablという遺伝子であることはすでにお話しましたが、グリベックはこのbcr-abl遺伝子が作っている異常な蛋白に結合することにより、この蛋白が出し続けている「異常な白血病細胞を作れ」という指令を遮断します。グリベックは、白血球の数を減らすだけでなく、フィラデルフィア染色体をもっている白血病細胞も減少させることにより慢性骨髄性白血病に対する効果を発揮します。グリベックが結合する蛋白の結合部位の変形により、グリベックが結合できない(白血病細胞の増殖を阻害できない)状態が起こった場合(グリベック抵抗性)や、副作用により治療が続けられない場合は、新薬であるタシグナやダサチニブによる治療に変更します。

タシグナはbcr-ablと結合するポケットにしっかりとはまるため、bcr-ablに突然変異が起きて形が一部変わっても他の部分で結合を保つことができます。したがってグリベックで治療効果が十分に得られない慢性期、移行期の慢性骨髄性白血病にも治療効果が期待できます。

CMLビジュアルガイドより引用

また、タシグナはグリベックに比べbcr-ablと結合する確率が高く、慢性骨髄性白血病に関係しない他の蛋白に結合しにくいため、グリベックでの治療が継続できない方でも、タシグナは継続できる可能性があります。
あらわれやすい副作用として、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、発疹、貧血、血小板減少症、高血糖等が挙げられます。タシグナの服用により副作用があらわれた場合、その症状に対する治療をしながら内服を継続するか、休薬・減量するかを主治医が判断します。ご自身の判断でお薬の服用をやめたり、量を変えたりせず、主治医にご相談ください。

参考資料

ノバルティス CMLビジュアルガイド
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